大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和22年(れ)208号 判決

主文

原判決中被告人座間次男に對する部分を破毀する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

被告人座間次男の辯護人畑中誠三上告趣意一は「前審判決理由第二判示ニ於テ原審相被告人池田万市ニ對スル第二回豫審訊問調書中同人ノ供述ヲ證據に採用シタルガ被告人ガ前審ニ於テ右同人ヲ證人ニ申請シタルニ拘ラズ昭和二十二年九月十九日第三回公判ニ於テ却下セラレタルハ明カニ刑事訴訟法應急措置ニ関スル法律第十二條ニ違反スル」というのである。

思うに、日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十二條には「証人その他の者(被告人を除く。)の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類は、被告人の請求があるときはその供述者又は作成者を公判期日において訊問する機会を被告人に與えなければ、これを証據とすることができない。」云々と規定してゐる。この規定の「被告人を除く。」とある被告人とは供述者又は作成者たる當該被告人及び同一審級の同一公判廷における共同被告人を指稱するものと解するのが相當である。その理由は、被告人は公判期日においては自己の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類に對し、自ら、自由に、辯解し得るものであり、また、同一審級の同一公判廷における共同被告人の書類については、右法律第十一條第二項の規定によりその共同被告人を何時でも訊問することを得るものであるから、特に、供述者又は作成者を訊問する機會を被告人に與える前記のような規定を設ける必要がないからである。然るに、共同被告人でも、公判廷を別にし、又は審級を異にするときは、右のような訊問の機會を與えなければ、被告人の權利を保護することができなくなるから、このような共同被告人は前記被告人中に包含されないものと解さなければならぬ。それ故斯ような共同被告人を訊問する機會を被告人に與えないで、その共同被告人の供述を録取した書類を證據としたときは前記規定に違反したものといわねばならぬ。今本件について記録を詳細に調査すると、原判決は、判示第二の事実として、原審相被告人飯高正之助、第一審の共同被告人池田万市、同原田末吉及同久保田事吉井隆夫の四名が共謀の上原判示第一の(一)乃至(三)の各犯行を爲すに當り被告人座間次男はその情を知悉しながらその都度屋外に於て見張りをして右四名の各犯行を容易ならしめてその幇助をした旨の認定をし、その認定をするに當り、その第二事実と原判示第一事実とを一括しその全事実に對する證據として、右飯高正之助の原審公判廷における供述、被害者の強盗難屆、醫師の診斷書、押收の日本刀、指揮刀、被告人の原審及豫審における供述等の外所論の第一審共同被告人池田万市に對する第二回豫審訊問調書中の供述記載の一部を羅列して掲げ、これらの證據を不可分的に綜合して、その全事実を認定したものである。然るに、原審公判調書によれば、原審において被告人の辯護人は、被告人の明示した意思に基ずき、供述者たる右池田万市を證人として申請したに拘らず、原審裁判所は不必要として却下し同人を訊問しなかったことが明白である。從って、原判決は審級を異にした第一審の共同被告人の供述を録取した書類を被告人の請求があり、且つ他に法令の除外理由も認められないに拘らず、その供述者を公判期日において訊問する機會を被告人に與えないでこれを證據としたもので、まさに、前記法律第十二條第一項に違反したものといわなければならぬ。しかも、前に述べたように、その違法な證據を他の證據と不可分的に綜合して認定の用に供したものであるから、その違法は判決に影響を及ぼさないとはいい得ないから原判決は既に此の點で全部破毀を免れない。仍て同辯護人の他の論旨及同被告人の辯護人豊原清作の上告趣旨に對する判斷を省略し、尚お、右の違法は事実の確定に影響を及ぼすものと認めるから、刑事訴訟法第四百四十八條の二に則り主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例